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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)1567号 判決 1989年1月26日

控訴人

株式会社住友クレジットサービス

右代表者代表取締役

鈴木雍

右訴訟代理人弁護士

川合孝郎

川合五郎

同(復代理人)

高見廣

被控訴人

持田勝廣

右訴訟代理人弁護士

木村達也

村上正己

同(復代理人)

尾川雅清

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、金二二九万一一六四円及び内金二二三万三〇六四円に対する昭和六〇年一月一一日から支払済まで日歩八銭の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言。

二  被控訴人

主文同旨

第二  当事者の主張

次のとおり付加訂正するほか原判決事実摘示及び同添付別紙請求債権一覧表、内入額及び確定遅延損害金計算書A、カード利用明細表のとおりであるからこれを引用する。

(原判決の付加、訂正)<省略>

(控訴人の主張)

一  本件カード契約の法的性質と本件更新条項の解釈

1(一) 一般にクレジットカード契約は、カード会社(以下「会社」という)とカード利用者(以下「会員」ともいう)との間に締結される期限の定めのない契約である。そして、右契約に基づき、有効期限の定められたカードが順次発行され、それぞれのカードの有効期限内のカードの利用につき、クレジットカード契約にもとづく信用の供与が行われるものである。

したがって、クレジットカード契約は、カードの有効期限切れ時における各当事者の契約継続拒絶―解約申し入れ―の意思表示のあったとき、または会社による会員資格の取消がなされたとき、会員の退会手続があったときを除いては、引続き継続しているものと解すべきである。

このことは、個々のカードの有効期限により契約が終了することなく、継続的なカード利用の基本契約としてのクレジットカード契約にもとづきクレジットカードの利用による信用の供与が行われるものとしてクレジットカード契約を締結する当事者の通常の意思に合致する。すなわち、各当事者はカードの有効期限にかかわらず、特別の事情のない限りクレジットカード契約を継続する意思をもっているものである。したがって、会社は、ごく例外的な場合を除き、カードの有効期限切れの前に新カードを会員に送付し、会員は特別の手続をなすことなくその新カードによる信用の供与を受けうるのである。

しかし、一方各当事者はその継続をのぞまないときは契約を終了させてもよいわけである。すなわち、クレジットカード契約は、会員の継続拒絶(解約告知の意思表示)により契約を終了させることもでき、また会員の信用状態の変動に伴い、会社がカードの有効期限の終了による新カード発行の機会に会員資格取消手続によることなく、契約継続の拒絶―解約申し入れ―をなすことにより契約を終了させることができるものと定めたものである。

また、カードの有効期限を定める趣旨は前記のほか、一定期間の経過によりカードのデザインを変更したり、偽造・変造防止措置をカードに講ずる必要、あるいはカードに新たな機能(たとえば磁気装置)を付与する必要等もあるため、期限切れの際に新カードと入れかえることにあるのである。

したがって、カードの有効期限は、あくまでカードそのものの有効期限と理解すべきものであり、クレジットカード契約の契約期間と理解すべきものではない。

(二) クレジットカード契約―当初のカード会員入会申込契約―は時の経過により、規定内容に種々の変更が加えられていくものであるが、会社は多数の会員を相手とする関係上、一々各会員との間で新規約の変更について承認を求めることはできない。したがって、新カードの送付と同時に新会員規約を送付し、会員のカード利用をもって変更された新会員規約を承認したものとして扱っているのである。

2(一) 前項の理は本件カード契約についても妥当するのであって、本件更新条項一文(なお現行規約では第一二条二項に明記)は前1(一)の趣旨を、同二文(現行規約では第一七条に明記)は前1(二)の趣旨を夫々定めるものであって、同二文は文字どおり、新会員規約を承認したものとする趣旨である。

(二) ついで、本件においては、昭和六〇年二月二〇日付解約届出までの間、前記会員からの解約の意思表示等の契約終了原因がないから本件契約は新カードの送付、利用という行為にかかわりなく―契約の更新という行為を要せず―継続しているものである。

二  本件変更届出条項の適用、およびその解釈。

1 本件更新条項を前項において述べたごとく理解するとすれば、本件カード契約は、前記の除外事由に該当する場合を除き、有効に継続していることとなるから、本件カード契約が継続する限り、本件変更届出条項(現行規定では第一五条)も適用されるのは当然である。

2 右条項の趣旨は以下のとおりである。

会社は多数の会員を対象とするものであるから、各会員の前記事項について、その変動を知ることは不可能である。したがって、前記事項に変更があるときはその事項の変更届出を会員に義務付け、その変更届出がないために会社からの通知または送付書類その他のものが延着し、または到着しなかったとしても、通常到達すべきときに会員に到着したものとみなすものとして変更届出をしなかったことにより受ける不利益を会員の責任としているのである(この点は株主総会の通知等の場合と近似する。)。

また、この本件変更届出条項が新カードの送付にも適用されることは当然であって、カードの送付のみを除外する理由はない。すなわち、本件更新条項中には新しいカードと会員規約を送付する旨記載してカードは会員規約とともに送付されることが明記されている。また、カードはクレジットカード契約の基本となる重要なものであり、カードがなければクレジットカード契約にもとづく信用の供与を受け得ないものである。

会社としては、会員の住所の変更は会員の自主的な届出がない以上知り得ないことであり、そのために本件変更届出条項を設けているのであるから、クレジットカード契約の基本であるカードの送付について本件変更届出条項の適用を特に除外する理由は考えられず、むしろ例示のないゆえに除外していると考える方が不自然である。

三  本件責任条項の適用およびその解釈

1(一) 本件責任条項の内容は前記のとおりであるが、右の規定は、現行規約では、「住友VISAカード会員保障制度規約」(以下「保障制度規約」という)として規定が設けられており、カードの紛失、盗難等による他人の不正使用に関して会員が蒙った損害は、所定の条件がある場合には会社が負担することとなっている。

この保障制度は、昭和五七年頃から実施されており、したがって本件カード契約の継続を認める限り、被控訴人にも適用されることとなる。

保障制度規約の内容は次のとおりである。

①会社は、この規定に従い、会社が発行する住友VISAカードならびに住友VISAタクシーチケットおよびハイヤー利用券(以下「カード」という)が紛失、盗難、詐取もしくは横領(以下「紛失・盗難」という)により保障期間中に他人に不正使用された場合、これによって会員が蒙る損害を全額填補する。

②本制度の保障期間は、本制度への加入の日から一年間とし、初日の午前〇時に始まり、末日の午後一二時に終る。

③カードが紛失・盗難にあったことを知ったときは、会員は直ちに会社および最寄警察署に届け出るとともに、書面による所定の届けを会社に提出する。右①により会社が填補する損害は、右の紛失・盗難の通知を会社が受領した日の六〇日前以降に行われた不正使用による損害とする。

④次の損害については、会社は填補の責を負わない。

会員の故意または重大な過失に起因する損害。

保障期間の開始する日前に生じていたカードの紛失・盗難に起因する損害。ただし、保障制度の継続の際はこの限りではない。

会員の家族・同居人による不正使用に起因する損害

紛失・盗難の通知を会社が受領した日の六一日以前に生じた損害。

戦争・地震等による著しい秩序の混乱に乗じて行われた紛失・盗難に起因する損害。

その他住友VISAカード会員規約に反する使用に起因する損害。

(二) 本件責任条項及びその発展形態である保障制度規約の適用会員がカードを受領している場合は新規、更新いずれのときも右規定が適用されるのはいうまでもないが、カードが右両場合に何らかの事情により会員に到達せず、会員不受領のまま、その間に、カードの不正利用により損害が生じたときの責任分担についても、右規約に準じて、ないしはその類推適用により、責任分担が決定されるのが公平である。

すなわち、①カードの不着による会員のカード不受領の状況、②会員の故意または重大な過失の有無、③会員と不正利用者の関係、④不正利用の時期等の事情を考慮したうえでその責任分担を決定すべきである。

具体的には次の基準によるべきである。

(1) 会社はカードの重要性に鑑み、カードを簡易書留郵便により会員の届出住所(住所変更による変更届出のあった住所を含む)に送付している(他のカード会社はともかく、少なくとも控訴人の取扱はそうである)。したがって、現在のわが国の郵便制度を前提とする限り、簡易書留郵便は当該住所に配達され、会員がカードを受領できるのが通常である。もし、会員が届出住所を変更しながら届出を怠っている場合にも、転居先へ配達されるか、あるいは転居先不明で会社へ返送されることになるから、会社が送付したカードが会員本人以外の者に渡るのはごく例外的な事態である。

そのような例外的な事態が起こり得るケースとしては、①郵便中の盗難等の事故によるケース、②会員が不在のため郵便局員が差し入れた不在配達通知書を盗んだ第三者が会員に代わってカードを受領した場合、③会員の家族・同居人がカードを受領(前記不在通知書による受領の場合を含む。)しながら会員に手渡していない場合が考えられる。

これらのケースのうち①②に該当し、カードを会員が受領しない間に、第三者にカードを不正に利用され損害を生じた場合には会員にその責任を負わせるのは公平に反する。したがって、この場合には会社がその損害を負担すべきであるということになろう。

しかし、③のケースの場合において、家族・同居人がカードを受領しながら会員に手渡さずそのカードを不正に利用した場合には、原則として会員がその責任を負担すべきものである。そして、そのことは会員にとって必ずしも不公平ということは出来ないというべきである。

すなわち、通常の場合、家族・同居人と会員との間には信頼関係があり、カードを受領した家族・同居人は会員にカードを手渡すものと考えるのが常識である。そのような信頼関係のもとに、書留郵便制度は成り立っている―だから、家族・同居人の場合、特別の手続を要せず書留郵便物が受け渡される―のであり、会社もそのような制度を前提に書留郵便制度を利用してカードを送付しているのである(そうでなければ、個々の会員にカードを一々手渡さなければならないこととなるが、そのようなことは到底不可能である)。

右に述べたことからすれば、家族・同居人がカードを受領した場合には、当該カードは会員の管理支配のもとに入ったというべきであり、その場合に、公平の原則に照らせば家族・同居人の不正利用の状況を問わず、会社が、すべての場合に、当然に、その損害について責任を負担すべき理由はない。けだし、家族・同居人が会員のカードを不正利用する場合には、会員と家族・同居人が通謀して家族・同居人がカードを使用したり、あるいは会員が自己のカードを家族・同居人が使用することを容認ないし黙認していることもあり、また家族・同居人の不正利用のケースにおいて、会社がすべての場合に、当然に、家族・同居人のカードの不正利用の損害について責任を負うものとすれば、それを悪用してカード利用に関し家族・同居人の不正利用であると主張して自己の責任を免れようとする者が現れないとは言えないからである。前記保障制度規約④は、右の意味で合理性がある。

(2) 次に、会員が転居しているにもかかわらず、前記変更届出条項にもとづく義務を履行せず、住所変更届出をなさなかったためカードが会員の手に渡らず不着となり、当該カードを不正利用されたために損害を蒙った場合には、会員は前記カードを受領している場合の不正利用と同様の責任を負担すべきである。けだし、右変更条項によりカードは会員に到達したものとみなされ、届出を出さなかったことによる不利益は右届出義務を怠った会員が負うべきものである。

2(一) 本件新カードが被控訴人の届出住所に発送され、被控訴人の代人により受領されていることは明らかである。したがって、本件新カードは被控訴人の管理支配下に入った後、利用されたものである。すなわち本件新カードにつき被控訴人から盗難又は紛失届も出されず、被控訴人は本件カード送付に至るまで、さらに本訴係属後においても次のとおり不可解な行動をなしているのであって、この事実関係は被控訴人自身が本件新カードを受領していることを示すものである。

すなわち、

(1) 本件新カード送付までの経緯

(イ) 被控訴人は昭和四七年一二月七日訴外西田知世子と婚姻すると共に同時に同女の父西田政信、母ハマエと養子縁組をなし、西田姓となり、その後同六〇年二月四日に離婚、離縁により旧姓持田に復したに拘らず、同四八年四月一四日の本件カード契約申込み、同年六月の妻知世子を家族会員とする申込につき、なぜか、旧姓持田を使用した。

(ロ) 被控訴人は昭和四八年一〇月新住所に転居しながら、その後の右家族会員申込、同四九年九月三〇日、同五〇年四月一四日、同五一年一一月一日各控訴人受付けで決済口座の変更をなし、なぜか右機会があるに拘らず、住所を新住所に変更していない。

(ハ) 被控訴人は昭和五〇年一一月訴外株式会社JCBにカード契約の申込みをなす際正しい西田姓を使っている。

(ニ) 被控訴人は同五九年一月三〇日本件カード契約が継続中で、その必要がない筈であるに拘らずなぜか控訴人北浜支店に対し、正しい姓西田勝廣名義でカード契約の申込をなし入会拒絶を受けている。

(2) 本訴係属後の不可解行動

被控訴人は昭和六〇年二月二〇日本件カード契約の解約届をなしながら本訴係属後の同年九月二七日訴外株式会社大丸に対し、同年一〇月七日訴外ダイヤモンドクレジット株式会社に対し、各自己名義で、同月八日訴外株式会社ミリオンカードサービスに対し、同年一二月一七日訴外株式会社JCBに対し、各なぜか行方不明の筈の弟持田信幸(以下「弟」ともいう)名義で、同六〇年九月二七日訴外株式会社阪急電鉄に対し、同六一年一月三〇日前同JCBに対し各自己名義で夫々カード契約の申込みをなし、右ダイヤモンドクレジット以外はすべて入会拒絶を受けている。

(以下右(1)(2)を「本件不可解行動」という)

(二) 仮に被控訴人又は代人が本件新カードを受領していないとするも、本件変更届出条項により被控訴人に到着したものとみなされる。この場合においても、本件契約の継続性を認めるならば、本件更新条項に基づき、被控訴人の本件新カードの送付、利用により新規約たる本件保障制度規約を承認したこととなる。

(三) つぎに右保障制度規約には控訴人の責任除外事由が前記のとおり規定されているところ、次のとおり本件においては右除外事由が満たされるから、不正使用による損害については会員たる被控訴人が責任を負うこととなる。

(1) 弟信幸により利用されたことは被控訴人自身が認めているのであるから、同規約の控訴人の責任除外事由である同規約第四条三号(本1(一)④)に該当する。しかも、被控訴人は前記(2(二))のとおりの不可解な行動をなし、また盗難届等を出していないのであって、この事実関係からみる限り右三号の除外事由の不適用運用がなされる場合である被控訴人と全く無関係な第三者による使用と認めることは到底できない。

(2) 仮に右除外事由三号にあたらないとしても、被控訴人は右不可解な行動のなかで、なぜか住所変更のみをなさなかったのであるから、右除外事由一号(同規約第四条一号)に該当するというべきである。

(被控訴人の認否と主張)

一1  前項控訴人の主張一1は争う。基本たるカード契約は有効なカードの存在なくして存在する意味はない。したがって有効なカードの期限切れによって右基本契約は終了すると解すべく、会社が右基本契約を更新する意思あるときはカードの送付により右基本契約の申込みがなされ、これに対し、利用者が右カードを受領して現実に利用することによって始めて右申込みに対する承諾があり右基本契約が成立するのである。こう解されなければ今日のカードの後記実情に適さないと言うべきである。

2  前同2(一)、(二)は争う。

二  前同二、1、2は争う。

三1  前同三1(一)は不知、同(二)は否認する。

2  前同2(一)冒頭部分は否認する。同(1)、(2)主張事実の外形的存在は認め、その余は否認する。右(1)(二)、(2)は被控訴人が解約の六ヶ月後においてブラック情報から抹消されているかどうかを自己名義及び弟名義分につきチェックしたまでで他意はなく、他意があればこのようにあからさまになす筈もない。同(二)は否認する。同(三)は争う。

四  本件訴訟はカードの安全性が争われている事案であって、カードの不正使用の危険負担を誰に負わせるべきかの法的判断が問われているところ、カードの実態をふまえ公平の理念に照らし決めるべきものである。すなわち、今日クレジットカードサービス業界は内部の過当競争のなかで各会社は、より多くの利用者の獲得目的と大量処理の必要という企業内部の都合のみで会員の更新意思の確認もせずにカードの有効期限満了に際し、一方的に、せいぜい簡易書留により新カードを多数濫発行し、その結果五枚に一枚が一度も利用されることのないいわゆる休眠カードと化している。しかも、右書留についても受領権限の正確性が担保されない代人受領により受取人本人に必ず配達されるとはかぎらないのである。このような実情下では会員がカード契約の存在すら忘れたり関心を失うことは十分ありうることであり、その場合にまで、住居届出義務と配達擬制により、会員に新カードの不正受領と使用による損害の危険負担を負わせるのは不合理不公平というべきである。

第三  証拠<省略>

理由

一本件カード契約の期限(カードの有効期限との関係)について

1  請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、本件カード契約の期限につき控訴人は期限の定めのない契約である旨、被控訴人は同契約により控訴人が発行するカードの有効期限と一致する旨各主張するので検討する。

本件カード契約において規約約款上請求原因1(一)、(五)の定めがなされていることは前示のとおりであって、これに<証拠>によれば次の事実が認められる。

(一)  本件規約においては、請求原因1記載の諸条項のほか、カードの所有権は控訴人に属する旨(第二条三項)、「会員資格の取消」の表題で、会員が本規約に違反した場合には控訴人が一方的に会員の資格を取り消し、又はカードの使用を一時停止することができ、この場合は会員はカード等を返却し、支払期限の到来をまたずに債務金額を返済すべき旨(第一〇条)が定められているが、カード契約自体の期限についての明示の定めはなされていない。

(二)  控訴人のその後の住友カード個人会員規約、住友VISAカード会員規約においても、前項約定の定め方は、カードの発行につき、これは控訴人が貸与するものである旨、規約の変更につき別項として、カードの有効期限到来時送付の新カード利用により承認したものとみなす旨の文言を入れているほかは、変っていない。右カード契約についての定め方は同業他社であるユニオンカード会員規約、ダイヤモンドクレジット会員規約、日本ダイナースクラブ会員規約、株式会社JCB会員規約、ミリオンカード会員規約、国内信販株式会社会員規約、ライフカード会員規約、日本信販クレジットカード会員規約、ファイナンスカード会員規約、大信販会員規約においても大同小異である。

(三)  控訴人はじめ、前掲カード会社らにおける本件カード契約の頃以降のクレジットカード契約についての一般的理解は次のとおりである。すなわち、基本契約たるカード契約は期限の定めのない契約であり、これに基づき同社所有のカードを会員に貸与するが、カードについてはデザインの変更の必要、磁気テープを入れたり、ICを組み込む等の機能の変更の必要、紛失盗難事故の防止と回避及び途中の会員資格取消時のカード回収ロスの回避の必要、カードの耐久性の限界等のためにカード自体の交替をなす必要があり、そのためにカードの有効期限を設定し、例えばこれを二年間とするが、同期限が到来しても、基本たるカード契約は終了するものではなく、会社において継続の必要を認める限り、期限の一ヶ月前に新カード及び、それまでに規約の変更がある場合のために新規約を会員に送付する。会員はカード契約自体の終了を望むときは期限の一ヶ月までにその旨会社に通知すれば足る。そして、右信用供与の継続性に照らし、途中で規約の変更の必要が生ずる場合があるが、その変更合意については、大量会員に対する事務処理の都合上、一々個々の会員との個別合意をとることが煩瑣であるため、新カード送付に併せて、変更規約を送付し、これに対し、会員が新カードを利用したときは新変更規約を承諾したものとみなすより外ない。

(四)  控訴人においても前項同様の理解のもとに本件規約及びその後の改定規約を作成しており、カードの有効期限到来に際し、前記控訴人側で一方的資格取消事由が見当らず、かつ会員が年会費を支払っている限り、旧カードの使用の有無に拘らず、新カードを会員に送付しているのが実情であって、その結果、新カードにつき一度も利用されないいわゆる休眠カード化するものが送付カードの約三〇パーセントに及んでいる。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠もない。

2 ところで、前記各同業者の約款により、クレジットカード契約の取引の当事者の通常の意思を推測すれば、双方ともに継続的なクレジットカード利用による信用の供与を望んでいるものと推認でき、これに前認定の事実関係を総合すれば、本件規約の文言上は特にカード契約自体の存続期限を定めた条項はなく、第八条一項はカードの利用期限のみの定めであり、同条二項一文は会員、控訴人が共にカードの利用期限満了直前にカード契約を終了させることができることを前提とするものであるが、新カードの送付以上のことを定めず、同条項二文も新カード利用による新変更規約の承認擬制を定めるのみであって、右第八条の各文言ともにカードの有効期限の到来によってカード契約自体の期限が到来する旨まで定めたものとは文言上解されず、結局、同規約は、基本たるカード契約の存在を前提とし、これは期限の定めのない契約とし、この基本契約に基づき、控訴人が別途に定める利用期限のあるカードを会員に貸与し、これを利用することにより信用を供与し、この基本契約の解約については控訴人は、右カードの利用期限到来前にその継続を検討し、新カードの不送付により解約することができ、別に第一〇条の理由があるときはカードの利用期限にかかわりなく解約できることとし、会員は右カードの利用期限到来の一ヶ月前に解約申出をなすことができる旨定めるのみで、カードの利用期限を本件カード契約の期限とする旨を定めているものではないと推認することができ、右推認の妨げとなる事情は証拠上認められない。もっとも被控訴人同旨の見解(甲第二四号証)もないではないが、被控訴人主張は、前記クレジットカード契約当事者の通常の意思に合致せず、右両期限を合致させなくとも、契約当事者は双方とも右認定のとおり、基本たるカード契約自体の解約権を留保しているのであって、当事者の利益を害することなく、かえって、右両期限を合致させる旨定めていると解すると第九条の関係で、新カードを受領後に不正利用があったとき、会員がわずか一度の利用をしたか否かの前後により前ならば不適用となり後ならば適用となるという極めて不合理な不均衡を生ずることとなる。

よって被控訴人の主張は採りえない。

3  そして、本件カード契約につき被控訴人が昭和六〇年二月二〇日解約届を出したことは当事者間に争いがなく、それまでの解約につき特段の主張立証もないから、その後の新カードの送付、受領の存否にかかわりなく、本件カード契約は右解約届迄の間継続していたというべきである。よって、この点の控訴人の主張は理由がある。

二被控訴人による本件新カードの使用(請求原因3(一)(1)、(二))について

1  <証拠>によれば、控訴人は、昭和四九年、同五一年、同五三年、同五五年、同五七年、同五九年の各六月に更新カードを簡易書留の方法で被控訴人の旧住所宛に送付し、右同五九年六月二二日送付のカードが本件新カードであること、本件規約においては、同業他社の規約同様、カードはカード表面に指定され自署した会員本人のみが使用でき、貸与、譲渡、質入はできない旨(第二条二項)定められていることが認められるところ、本件新カードの写として甲第一二号証、控訴人において被控訴人による使用である旨主張する本件新カードの使用に対応する売上伝票の写として甲第二号証の一ないし六一が存し、いずれも本人署名欄にカタカナ書きで被控訴人名の「モチダカツヒロ」(但し後記のとおり一部は「モチダカツシロ」)なる署名が存する。これによれば右本件新カードの使用者は被控訴人であるかにひとまず推認されなくもない。

2  しかしながら、<証拠>によれば、被控訴人は本件カード契約締結後、カード利用に余り関心がなく、わずかに昭和四九年九月三〇日、同年一二月二三日二度、同五〇年一月一一日、同年三月一三日、同年四月五日の六回、各約二万円以下の小額の使用をなしたのみであったこと、本件新カード、前掲売上伝票の各カタカナ書きの被控訴人署名は被控訴人のそれと「チ」「カ」「ツ」「ヒ」が明らかに異なり、(とりわけ、甲第二号証の三九表、同四一裏は「カツシロ」と署名され、被控訴人の親族ならばなす筈がないものである)、被控訴人が書いたものでないことが認められ、他に右同第一二号証、同第二号証の一ないし六一が被控訴人の署名代行機関によりなされたこと、さらに右請求原因事実の各カード使用を被控訴人がなしたことを認めるに足る証拠もない。そうすると、本件新カードが被控訴人に対し到着したかどうかをさておいても、請求原因3(一)(二)事実は認めるに足る証拠はない。したがって、本件右請求原因3(一)(1)、(二)は被控訴人以外の誰かが被控訴人の名をかたってなした本件新カードの不正使用というほかない(以下「本件不正使用」という)。

三本件責任条項の適用ないし類推適用について

1  前項でみた本件不正使用につき、控訴人は被控訴人が本件新カードを一旦受額しており、仮に受領していなかったとしても本件変更届出条項により新カードが被控訴人に到着したものとみなされるから、本件責任条項ないし、その改正規約である保障制度規約の適用を受けることとなる、仮にそうでなくとも、右両規約は新カード不着後の不正使用の場合にも類推適用されるべき旨主張するので以下検討する。

2  本件不正使用に適用される規約について

本件責任条項の規約文言が請求原因1(六)のとおりであり、前掲甲第三四号証の六ないし八によれば、右条項の発展形態である本件保障制度規約文言が控訴人の当審主張(三1(一))のとおりであることが認められるところ、本件カード契約において変更条項が会員に適用されるのは会員が新カードを自ら利用したとき以降であることは前記争いのない本件更新条項第一項二文及び前認定のところより明らかである。そして、被控訴人が本件カード契約締結後本件新カード送付までの間に本件保障制度規約送付後に、送付された更新カードを利用した事実は主張立証なく、被控訴人が本件新カードを利用していないことは前示のとおりである。そうすると、被控訴人については本件責任条項規約が適用されるのみであり、未だ同人の承認ないし同擬制のない本件保障制度規約の適用はないというほかない。よって、右と異なる控訴人主張は理由がない。

ついで本件責任条項の適用範囲についてみるに、同条項文言の趣旨及びその通常の用語例によれば右条項は会員が一旦カードの送付を受けて受領した後、これが紛失、盗難等にあい、その結果不正使用された場合の責任分担を定めるものであると認められ、さらに右条項が会員にカードが未到達ないし不着の間に生じた不正使用の場合をも含めて定めていると解釈すべき事情は証拠上認められない(この場合に右規定を類推適用すべきか否かは後に判示する)。

3  被控訴人による本件新カードの受領の存否について

(一)  そこで、被控訴人が本件新カードを受領したか否かについてみるに、被控訴人が昭和四八年四月本件カード契約締結時は旧住所に住居しこれを届け出たが、同年一〇月に新住所に転居しながら本件変更届出条項による届出を怠ったことは当事者間に争いがなく、そのため控訴人が同五九年六月二二日被控訴人の旧住所宛で同人に対し本件新カードを簡易書留郵便により発送したことは前認定のとおりである。そして控訴人は書留郵便制度、手続に対する一般的信頼、被控訴人の不可解な行動がある本件においては本件新カードが被控訴人によって受領されたものと推定すべき旨主張するので考える。

(二)  たしかに、郵便法によれば郵便物は、その受取人がその住所又は居所を変更した場合にその後の住所又は居所を届け出ているときは、その届出の日から一年内に限り、これをその届出に係る住所又は居所に転送し(郵便法四四条)、郵便物の受取人の真偽を調査するため、受取人に対し必要な証明を求めることができ(同法四五条)、郵便物の特殊取扱いの一つとして書留があり、この取扱いにおいては郵政省において、当該郵便物の引受から配達に至るまでの記録をし、若し送達の途中において当該郵便物を亡失し、又はき損した場合には差出の際差出人から国に申出のあった損害賠償額の全部又は一部を賠償する(同法五七、五八条)ことと定められ、右同法、及びこれに基づく省令に定める手続を経て郵便物を交付したときは正当の交付とみなされる(同法四六条)。そして、成立に争いない甲第四号、第一一号証の一、二によれば、本件新カードは昭和五九年六月三〇日大阪南郵便局の窓口で受取人又は代人(右葉書記載上は右いずれかの特定はできない)に交付されている旨の右同郵便局長から控訴人宛に葉書が届いていること、一般的に、書留の窓口交付は郵便局郵便取扱規程(昭和四〇年四月一六日公達第二五号)によりなされているところ、書留郵便物の配達の際受取人代人(郵便事務上の呼称)ともに不在のときは不在配達通知書を郵便受その他適宜の箇所に差入れ郵便物を持ち戻り、同郵便物の受取りの申出、又は配達証等の提出を受けたときは、正当受取人であることを確めた上、配達証に受領印を押させて郵便物を交付し(右同規程一六一条一、一六八条一(一))、その際必要があれば、身分証明書等により正当受取人であることを確め、代人のときは右配達証にその旨を肩書して(又は代人欄に)記名押印させ、その際代人と本人との関係明示の必要があるときは右関係を付記させ(同一六八条注1及び6)、右関係が明らかになる書類等(種類の指定なし)の提示を受けることができる。とされていること、が夫々認められ、さらに本件不可解行動(1)(2)の外形的事実経過の存在は当事者間に争いがなく、前掲甲第八号証、同証人八木の証言によれば、控訴人が本件カード契約に基づき、被控訴人に対し旧住所宛に簡易書留で送付した更新カード五通(昭和四九、五一、五三、五五、五七年の各六月送付)がいずれも本件新カード同様返送されず、また、本件カード契約の年会費が解約まで、被控訴人の口座から継続して引落されていたこと、控訴人が本件新カードの利用代金を請求した際、被控訴人は同年一二月一五日、弟信幸に無断で使用され現在行方をさがしている処だからもう少し待たれたい旨の返答をなしたことが夫々認められる。

以上の書留郵便の窓口交付等の処理法制と右認定事実関係に、公知の事実である一般国民が郵便処理の正確性に一応の信頼を寄せていることを総合すれば、本件新カード在中の前記簡易書留郵便が被控訴人または旧住所に居住していた同人の親族で被控訴人より同人宛の郵便物受領権限を与えられた者により受領された事実を一応推定できそうにもみえる。

(三)  しかしながら、<証拠>によれば次の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(1) 被控訴人は昭和四七年一二月二七日新住所居住の西田政信夫婦と養子縁組をなすと共に同夫婦の娘知世子と婚姻し、同六〇年一一月四日に右を協議離縁、協議離婚により解消し、旧姓「持田」に復した。結婚後も旧住所で居住し、その三帖に事務机と電話をおいた事務所を置き「マリブ大阪」の商号でサーフボードの仕入れ、卸業をなし、右旧住所には被控訴人の父と弟信幸が住み両名とも会社に勤務していた。

(2) 被控訴人は昭和四八年四月旧姓を用いて本件カード契約をなし、同年一〇月に右事務所は旧住所に残したまま、新住所に転居し、同所より旧住所の事務所に通勤していたが、昭和五一年末頃に右事務所も新住所に移転したが、郵便局へ転居届をなさなかった。この間同四九年六月一〇日控訴人に対し妻知世子についても被控訴人の旧姓で家族会員として申込み、同年九月二六日、同五〇年四月一二日、同五一年一〇月二八日(前二者は旧住所の事務所に控訴人担当者を呼んで)に各本件カード契約の決済口座を変更届をなしたが、被控訴人はカードに余り関心がなく利用したのは前記同五〇年四月五日まで五日(回数は六回)に止まった。

(3) 被控訴人が旧住所から事務所も移転した後、家主より旧住所の立退きが求められ、被控訴人の父及び弟はおそくとも昭和五四年四月頃には立ち退き、弟信幸は約一〇メートル離れたアパートの一室を借りて転居したが、旧住所家屋は昭和五五年以降は家主により戸口に板が打ち付けられ空屋であることが判然としていた。

(4) 被控訴人の弟信幸は昭和五九年四月頃右アパートから松原市阿保四丁目三番三七―二〇三号の貸間に転居したが同年一〇月初め頃より帰宅せず、同月二三日被控訴人より新住所所轄警察署に家出人捜索願が出された。

(5) 本件カード契約に基づくカード利用は前記昭和五〇年四月後は途絶えていたところ、被控訴人信幸出奔直前頃の同五九年九月二六日を初回とし、同一〇月一三日から同二八日の本件新カード回収までの間に合計六一回に及び換金性の高い商品ばかりの買上げに利用された。控訴人は右利用態様の異常性に照らし不正使用の疑いを認め、加盟店に本件新カードの無効通知を出したところ、同年一〇月二九日右カードの呈示があったが使用者が逃走したため回収された。

(6) 被控訴人は事務所を旧住所から新住所へ移転した後は父または弟から旧住所宛の被控訴人に対する郵便物、とりわけ、少くとも昭和五三年六月以後本件カード前の三通の更新カードを受取ったことはなく、同五九年一月三〇日には控訴人北浜支店に対し西田勝廣名義でカード契約の申込みをなしたが、被控訴人が同五八年六月に自己破産申請をなしたことを理由として拒絶された。

(四)  そこて右(二)及び(三)を対比して考えるに、まず、右郵便法制とりわけ郵便法四六条は国と郵便利用者との関係を規律するものであって、この規定から直ちに民法九七条その他私法実体法上の意思表示その他郵便物の相手方に対する到達まで推定できる性質のものとは解しがたく、しかも、前記書留郵便の窓口交付制度は受取人宛先住所に住所が存し、偶々配達担当者が赴いたとき不在で持ち戻ったことが前提であることは明らかであって、さらにその際の窓口における代人に対する交付においても右法制上代人の範囲が明示されておらず、代人と本人の関係の認定方法についても常に受取人に証明をさせるべきこと、その際の証明書類が指定されているものでなく、多分に窓口担当者の裁量が入る余地が残されており、しかも右代人交付の際の証明の存否、その正当受取人と認定した証明方法如何についての記録を残すべきものとされていないのである。このような郵便処理の制度下においては、少くとも窓口における代人交付がなされたことから直ちに代人の受取人との関係における実体私法上の受領権限の存在、ひいては受取人の実体私法上の正当な受領を一応推定したり若くは受取人による受領事実を事実上推定できるかはこれを直ちに肯定し難いというべく、本件においては、前項認定の事実関係、とりわけ、前記(三)(2)ないし(4)によれば、被控訴人の住所は旧住所には昭和五二年頃には全くなく、同五五年以降は空家状態が明白であって、被控訴人転居後旧住所に残っていた同人の父、弟の住居すらなかったというほかないのである。そして昭和五四年後弟の転居した貸間が旧住所と同一番地に存したことを認めるに足る証拠はない。そうすると、そもそも本件においては前記郵便法制が正当な郵便物の配達または窓口交付の前提要件となす受取人住所として表示された場所に受取人である住所が存在しなかったのであるから、ただ表示された受取人住所所轄郵便局窓口において代人と称する者に本件新カード入り書留郵便物が交付されたことから直ちに受取人たる被控訴人若しくは正当な受領権限ある代人による受領事実を一応又は事実上推定することは到底できないというほかない。よってこの点の控訴人の主張は理由がない。

(五)  ついで、前(三)認定の事実関係と前記(二)の更新カード五通がいずれも簡易書留で旧住所の被控訴人の旧姓宛で送付されながら返送されず、本件新カード送付の頃まで本件カード契約の年会費が被控訴人の口座から引落されていた事実を総合すれば、被控訴人が自己の事務所をおく旧住所に居住する弟若しくは父の便宜のために、同人らに対し、本件カード契約の名義ないし口座を使用させるために本件カード契約者名義に旧姓「持田」、住所を旧住所として同契約を締結し、カードを利用させようとし(以下「カード利用の許諾」という)、そのために本件カード契約を締結し、したがって、そのため旧住所転居後も同所及び弟が一〇メートル程離れたアパート貸間に転居後も同貸間に自己の住居所があるように表示すること、代人として自己に代り本件カード契約により自己宛郵便物を受領する権限を与えていたのではないかとの疑いをもたれかねない面もないではない。しかしながら右口座貸の必要があったとすれば被控訴人が転居後も同人名で今少し更新カードが利用されてもよい筈であるのに、前認定のとおり昭和五〇年四月五日後は本件カード契約に基づくカード利用が本件不正使用まで全くなかったことと矛盾する上、本件カード契約当時被控訴人は旧住所の営業用の事務所及び旧姓による銀行口座を有したため、右契約の姓住所を符合せしめたと考えられないでもない点、前認定のとおり本件不正使用前に被控訴人が弟の家出を知りその所業に不信をいだいていたことは推測しうるところであるから、右不正使用代金請求に対する前認定弁明は必ずしも弟に対するカード利用の許諾と結びつかない点、カードの利用回数がわずか六回で昭和五〇年四月五日後はなく(前(三)(2))、その後転居のため、被控訴人からの書類一切を受領しておらず、決済口座の各種引落を一々チェックしていなければ、年会費の引落しに気付かないことも十分ありうることであるから、年会費の継続引落し事実も直ちに前記カード利用の許諾とも結びつかない点、前(三)(6)の拒絶理由と経過に照らせば、前示本件不可解行動(1)(二)、(2)は自己のブラック情報チェックのためという弁論の全趣旨により認められる被控訴人の弁明も首肯できないことはない点、以上の諸点に照らせば、前(二)(三)判示の事実を総合しても、直ちに本件カード利用の許諾ないし、そのために弟に対し、同人の住所に被控訴人の居、住所が存することを表示し、或いは代人として本件カード契約上の郵便物の受領をなす権限を与えていたことまで推認することは到底できないという外ない。そして他に被控訴人が自らまたは受領権を与えた他人により本件新カードを受領したことを認めるに足る証拠はない。よって、この点の控訴人の主張は理由がない(なお叙上のところよりすれば、被控訴人は昭和五二年頃旧住所を引き払いながら、自らまた弟らより転居届がなかったうえ、本件カード契約名義が旧「持田」姓であったため、更新カード等本件カード契約による書類一切が旧住所に誤って配達されたが、弟らが被控訴人に対し転送もせず放置したので、弟が昭和五四年に近所の貸間に転居後も引続き誤って配達されつづけたところ、弟は偶々本件新カードの局保管を知り、被控訴人に無断で本人又は代人として窓口交付を受けておいたが、同年九月末頃出奔の機会に被控訴人に無断で利用を思いたち、自ら若しくは他人に使用を許し本件不正使用に至った疑いがもたれる)。

4  本件変更届出条項による新カード受領擬制について

右条項内容については当事者間に争いがないが、その規律対象につき控訴人は右条項には新規及び更新を問わずカードも含まれる旨主張するので検討する。本件変更届出条項は、本来意思表示については到達主義(民法九七条)によるべきところ、大量処理の便宜と延着、不到達の危険負担を利用者に負担させる目的で右到達擬制を特約し、これを「書類その他のもの」にも及ぼす趣旨のものと解される。もとより、このような特約の許されることはいうまでもないところ、伝達の目的物(客体)が文書、図画等書類という媒体それ自体ではなく、それに表示された意思表示等観念的存在としての意味内容自体であって、その内容自体またはその伝達自体に対し法律上の効果が与えられる場合(したがって、相手方は後日他の手段方法により右観念的存在及びその内容を知りうるから全面的に利益を害されることはない)、若しくは到達について専ら相手方のみが利益を有するに止まる物の場合には、右到達の擬制は親しみ、それなりの意味と効力を有する。しかしながら、カードについてみるに、叙上のところと前掲甲第二号証の一ないし六一、同証人八木の証言によれば、カード発行の基盤である本件カード契約の目的、内容は、会社は会員に対しカードを現実に貸与交付して、加盟店で提示させ、同店でそのコピーをとる方法で利用させることにより信用を供与し、その代価として手数料、金利等の利益を得ることにあることが認められ、右事実関係によれば本件カード契約においては当事者双方が有償代価的にカード利用につき利益を有し、カードの現実交付は右契約目的実現のための最低不可欠の手段であるというべく、このようなカードの交付に到達の擬制をなすことは右契約にとって自己矛盾であり、意味のないことという外ない。したがって本件変更届出条項には、新規更新を問わずカードは含まれないものと解すべく、同条項が例示のうちにカードをあげていないのは当然の事理というべきである。なお控訴人は本件責任条項適用の前提として右カードを含ましめる必要がある旨主張するかのようでもあるが、後記のように、カード不着の場合の損害分担を到着後の紛失等の場合と同様に扱うべきかは、双方の利益衡量、公平の理念に沿って前記到達擬制の趣旨目的とかかわりない別途の考慮に基づき責任条項自体の解釈その他の法理により決すべきことであるから、到達擬制対象にカードを含めておかなくてはカード不着の場合の損害を会員に対し問えないものではない。よって、本件新カードは本件変更届出条項により被控訴人に対し到達、したがって交付された旨擬制されることはなく、ひいて本件不正使用も責任条項中カードが会員に到達後紛失等により生じた不正使用による損害の会員負担条項の適用はないという外ない。よって以上と異なる控訴人主張は理由がない。

5  本件不正使用に対する本件責任条項の類推適用について

(一)  控訴人は本件において本件責任条項を類推適用すべき理由として、①カード不着の状況、②会員の故意又は重大過失の有無、③会員と不正利用者の関係、④不正利用の時期等の事情を考慮すると、本件では、被控訴人が住所変更届を怠った重大な過失があり、本来信頼できる書留によっている上に通常会員に交付すべきものと信頼されている弟により受領され、不正利用されたものであるから、控訴人が右不正使用による損害を負担すべきとするのは公平に反する旨主張するので以下検討する。

(二)  まず、前示の本件責任条項により、その構成をみるに、まず紛失、盗難による不正使用に基づく損害(以下「盗難等損」という)は会員が責任を負うことが前提とされ、故意又は重大な過失なく、しかも控訴人又はその提携金融機関に対し所定の届出を提出したときは、右届出以後三〇日後の損害負担を免れ、右負担額は、会員が住友カード盗難保険に加入しているときは右保険により補填される額限度とされるというにある。

ところで、<証拠>によれば、控訴人においてはその後本件責任条項は保障制度規約に変更され、これによれば盗難等損は右条項とは逆に控訴人負担を原則とするが大巾な例外による会員負担を定めると改正され、同業他社も大概右両条項のいずれかと同様の規定を定め、その前提として、控訴人、右各社はいずれもカードの所有権を会社に留保し、これを会員に貸与し、会員は貸与されたカードの善良なる注意義務による保管責任を負う旨定めている。したがって、右責任条項における届出義務ないし盗難等損の会員負担は、右会員の保管義務を前提とし、これに基づいてこそ、合理性を承認され特約として許されるものというべきである。

他方、カード不着の場合は会員に右保管義務が発生する余地がなく、従って届出義務の前提を欠き、仮に会員に任意の届出を期待するとしても、会社から不正使用による立替代金等の請求を受けて始めてカード不着、及び同カードの不正使用を知ることとなり、届出はその後とならざるをえず、右責任条項によるときは右届出をなすまでの盗難等損は会員に何らの帰責原因がないときにも常に当然に会員負担とならざるをえないこととなるが、このような結果を合理化すべき理由は見出しがたく、かえって、書留郵便制度下にあっては会員以外による不正受領が稀有の事柄であるとしても、右盗難等損は、会社が社員による交付を省略した結果生じたものというべく、これを会員に転嫁するに等しく、報償責任の理念に照らし合理性に乏しいというべきである。

そうすると、本件責任条項の構成に照らし、カード不着の場合の盗難等損に右条項を類推適用することは前掲要件に欠け、不合理結果を生ずることとなり肯定しがたいというべきである。

(三)  のみならず、本件事案についてみるに、(1)前認定のとおり、本件においては名宛人住所外に対しなされた書留送付を原因とし、窓口において代理受領権の証明を記録上残すことなく、同姓の、しかも別世帯で同居家族でもない弟に誤って交付された疑いがもたれるのであって、たしかに被控訴人が本件カード契約上の名義を右弟と同姓の旧姓を事実に反して使用し、転居届を怠ったことが事実上の原因となっていることは明らかである。しかしながら、(2)前示のとおり被控訴人が新住所に転居後は本件カードの窓口交付につき郵便法上も実体私法上も正当交付の推定を受けえず、旧住所存在の認定を慎重になし、弟が別世帯員であるから窓口で親族ゆえに当然に代人として受領権限があるものでないことに留意されれば、本件は防ぎえた稀有の事柄であり、しかも、控訴人が被控訴人に対し昭和五〇年四月五日後全くカード利用なく、関心を失ったとみるべきにも拘らず、機械的に同五一年以降二年毎五回に亘り慢然と更新カードを送り続け、これが本件不正使用の原因となったものであり、また、別世帯員たる弟にまで「家族」であることのゆえに、本人に交付すべきことが信頼され、さらにその不正の責任を被控訴人に帰せしめる理由はいずれも乏しいのである。以上(1)、(2)を対比し、報償責任と公平の理念に照らし考えれば、本件事案に限ってみても被控訴人に右(1)の義務懈怠の過失があったとしても直ちに本件不正使用による損害を同人に分担せしめる理由はなお乏しいというべきである。

(四)  以上(二)、(三)のところを総合すれば、本件不正使用による損害分担について本件責任条項を類推適用することはできないというべきである。よって、請求原因4の主張は理由がない。

四以上の次第で、その余の点につき考えるまでもなく、控訴人の本訴請求は理由がないので棄却すべく、同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないから棄却を免れない。

よって、民訴法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官潮久郎 裁判官杉本昭一 裁判官三谷博司)

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